上咽頭がんは台湾や中国南部、シンガポールなどに多く発生する疾患で、国内ではまれです。Epstein-Barr(EB)ウイルスが発がんにかかわっているといわれています。発症は40~70歳台に多いですが、10~30歳台でもみられるため、注意が必要です。
上咽頭は鼻腔のつきあたりに位置しているため、鼻出血や鼻づまりが生じることがあります。また鼻と耳をつなぐ耳管という管の出入り口が上咽頭にあるため、がんが浸潤すると耳管が閉塞して難聴や耳のつまった感覚が起こります。
上咽頭の上側に頭蓋骨や脳があり、頭蓋骨ががんで破壊され脳神経が障害されると、頭痛や顔面痛(三叉神経症状)、ものが二重にみえる(外転神経症状による複視)といった症状が起こります。
くびのリンパ節にがんが転移してしまうと、くびのしこり(頸部リンパ節腫脹)を自覚します。上咽頭がんでは、くびのやや後ろ側(後頸三角)のリンパ節に転移することが多いといわれています。
これらの症状はどれか一つだけ起こることもあれば、複数起こることもあります。
鼻から電子内視鏡を挿入し、上咽頭を観察します。見た目でがんがわかることもありますが、深いところに潜んでいる場合には粘膜表面を見ただけではわからないこともあります。がんを疑う箇所があれば、鼻の中に麻酔をした上で器具を入れ、疑わしい箇所を一部つまみ取り、顕微鏡の検査に出してがんの有無を調べます(生検による病理組織診)。
くびのリンパ節にがんが転移することがあるため、超音波でくびの皮下を観察し、がんを疑うようなリンパ節がないか確認します。疑わしいリンパ節があれば、針を刺してがん細胞の有無を確認することがあります(穿刺吸引細胞診)。
CTやMRI検査を行ってがんの広がりやリンパ節転移の有無を調べます。PET検査を行って、肺など別の臓器に転移しているか調べます。
早期の上咽頭がんに対しては、放射線治療が単独で行われます。口の中が乾いたり、痛くなったり(咽喉頭および口腔の粘膜炎)、味を感じにくくなるなどの副作用が生じます。これらの副作用は治療後も続くことがあります。
がんが進行していたり転移があったりする時に、放射線治療と併用して行うことがあります。遠隔転移がある場合や、放射線治療後に再発した場合に、病気の進行を抑えるために使われることもあります。嘔気などの副作用が起こることが多いですが、抗がん剤の種類によって異なります。
上咽頭は周囲に頭蓋骨や脳神経といった大事な組織があり、また鼻の突き当たりという顔の奥深くに位置しているため、手術では取り切れなかったり多くの合併症を残してしまったりするため、ほとんどの上咽頭がんは手術の対象にはなりません。
すでに放射線治療を行った後に再発した場合、小さな限局した病変であれば切除できることがあります。
医師 頭頸部外科部長
菅澤 正 (すがさわ まさし)
SUGASAWA MASASHI
日本耳鼻咽喉科学会専門医・指導医、 日本頭頸部外科学会頭頸部がん専門医・指導医、 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会専門医・指導医、 日本気管食道学会認定気管食道科専門医、 日本がん治療認定医機構がん治療認定医、 緩和ケア基礎研修会修了、 臨床研修指導医講習会修了、 医学博士
医師の詳細はこちら医師 耳鼻咽喉科部長
明石 健 (あかし けん)
AKASHI Ken
日本耳鼻咽喉科学会専門医・指導医、 日本頭頸部外科学会 頭頚部がん専門医・指導医、 日本がん治療医認定機構 がん治療認定医
医師の詳細はこちら医師 腫瘍内科 部長
大山 優 (おおやま ゆう)
OYAMA Yu
日本内科学会認定内科医・総合内科専門医、 米国腫瘍内科専門医、 米国血液科専門医、 日本臨床腫瘍学会指導医、 日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医、 日本臨床腫瘍学会協議員、 日本臨床肉腫学会理事、 日本サルコーマ治療研究学会評議員
医師の詳細はこちら医師 放射線科 部長・放射線治療センター長
庄司 一寅 (しょうじ かずふさ)
SHOJI Kazufusa
日本放射線腫瘍学会・日本医学放射線学会 放射線治療専門医、 厚生労働省指定オンライン診療研修修了
医師の詳細はこちら現在のところ、台湾や中国南部で伝統的に食べられている塩蔵魚が、上咽頭がんのリスクを上げるといわれています。
上咽頭がんの治療は主に放射線照射や化学療法ですが、それらの治療後に上咽頭を中心に粘膜の炎症が起こると、痛みで食事が取りづらくなったり飲み込みづらくなったりします。そのため禁煙だけでなく、口からの刺激物の摂取も避ける必要があります。