甲状腺は蝶ネクタイのように左右に広がった形をした小さな臓器でのど仏のやや下の方にあり、甲状腺ホルモンを作り出す大切な役割を持っています。
※正常の甲状腺は小さく柔らかいので外から触れても分からないことがほとんどです。
甲状腺がんは年間8000人ほどがかかり、女性に多く男性の約3倍の頻度となります。年齢的には20才代からお年寄りまで幅広い年齢層に見られます。最近では放射線被爆による小児の甲状腺がんの増加が懸念されています。 この甲状腺がんには、進行が遅く治りやすい分化がん、急激に進行して予後の悪い未分化がん、さらに遺伝性の要素のある髄様がんと大きく3つのタイプに分かれますが、分化がんが約95%と圧倒的に多いので、このがんに絞って解説を進めます。
初期にはほとんど無症状で、乳がん検診や人間ドックなどで偶然見つかることが多いです。ある程度進行すると首の下の方のしこりとして触れたり目につくようになってきます。唾を飲み込んだ時にのどと共に上下に動くことが特徴的です。甲状腺の裏側には声帯を動かす神経が走行しており、がんが進行して神経が麻痺すると声帯が動かなくなり声がれが起こってきます。これが最初の症状となることもあります。また、首のリンパ節に転移してしこりが出てくることもあります。
診断には、病気の拡がりの確認のため、超音波検査・CT検査・PET検査などが行われます。注射針によって吸引した細胞の検査が決め手となります。
治療の基本は手術です。病気の拡がりにより甲状腺の片側のみ、あるいは全部の切除が行われます。甲状腺の裏側には反回神経という声帯を動かす神経が走っているため、この神経を注意して確認しながら甲状腺を切除します。全部切除した場合には生涯甲状腺ホルモン剤を飲み続けなければなりません。首のリンパ節に転移した場合はそちらの切除も必要になります。一方、がんが肺など遠くに転移した場合、放射性ヨウ素内用療法という特殊な放射線治療が行われることもあります。さらに最近では手術で切除する事ができない病変に対して、甲状腺がんに有効な分子標的薬も使われるようになってきました。
甲状腺分化がんの多くは比較的おとなしく予後は良好で、10年生存率は90%前後といわれています。
医師 頭頸部外科部長
菅澤 正 (すがさわ まさし)
SUGASAWA MASASHI
日本耳鼻咽喉科学会専門医・指導医、 日本頭頸部外科学会頭頸部がん専門医・指導医、 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会専門医・指導医、 日本気管食道学会認定気管食道科専門医、 日本がん治療認定医機構がん治療認定医、 緩和ケア基礎研修会修了、 臨床研修指導医講習会修了、 医学博士
医師の詳細はこちら医師 耳鼻咽喉科部長
明石 健 (あかし けん)
AKASHI Ken
日本耳鼻咽喉科学会専門医・指導医、 日本頭頸部外科学会 頭頚部がん専門医・指導医、 日本がん治療医認定機構 がん治療認定医
医師の詳細はこちら医師 腫瘍内科 部長
大山 優 (おおやま ゆう)
OYAMA Yu
日本内科学会認定内科医・総合内科専門医、 米国腫瘍内科専門医、 米国血液科専門医、 日本臨床腫瘍学会指導医、 日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医、 日本臨床腫瘍学会協議員、 日本臨床肉腫学会理事、 日本サルコーマ治療研究学会評議員
医師の詳細はこちら医師 放射線科 部長・放射線治療センター長
庄司 一寅 (しょうじ かずふさ)
SHOJI Kazufusa
日本放射線腫瘍学会・日本医学放射線学会 放射線治療専門医、 厚生労働省指定オンライン診療研修修了
医師の詳細はこちら甲状腺が全て切除されると甲状腺ホルモンが分泌できなくなるためホルモン剤を内服する必要があります。1日1回の内服となります。甲状腺ホルモンは作用時間が長いため少しの薬の飲み忘れですぐに重篤な症状が出ることはありませんが、長期間飲み忘れてしまうと体のむくみやだるさなどが現れます。
また鉄剤や、アルミニウムを含むような下剤など、飲み合わせの悪い薬があるためそのような薬とは飲む時間をずらすことが大事です。
副甲状腺は甲状腺の近くにある組織で通常体内に4腺あります。体内でカルシウムの調整を行っています。副甲状腺は手術の際に温存するように、あるいは取れてしまっても体内に埋め込むようにしています。
しかし甲状腺腫瘍の進行度によっては全て切除せざるを得ない時があります。その様な時は体内のカルシウムが低下してしまうため、永久的にビタミン製剤とカルシウム製剤の内服が必須となります。カルシウムが低下すると口周囲や指先の痺れが現れ、重度になると筋肉のこわばりなどが出現することがあります。逆に薬の量が多すぎるとカルシウム値が高くなり、脱水になって腎臓の機能が悪くなたり、嘔気や食欲不振が出たりすることがあります。
通院で定期的に採血をしてカルシウムの数値をチェックすることが大事になります。
甲状腺の裏を反回神経という声帯を動かす神経が走っていて、反回神経が声帯を閉じる事で私たちは声を出すことができます。
反回神経の一時的な麻痺でしたら数ヶ月で回復することが殆どですが、腫瘍が神経に及んでいて神経を切断せざるを得ない場合、術後声は出ますがかすれ声になってしまったり大きな声が出しづらくなってしまいます。
声のかすれ具合によりますが、声帯にコラーゲンや脂肪を注射したり、動かなくなってしまった声帯を真ん中に寄せる手術をすることで声をよくするような方法があります。