図に示すように、咽頭は上下に長い器官で上・中・下に分かれており、下咽頭はその一番下で喉頭の真後ろになります。呼吸と食事はどちらも「のど」を通りますが、空気が喉頭を通って気管・肺へと入っていくのに対し、食物は下咽頭を通って食道・胃へと入っていきます。下咽頭がんはこの下咽頭に発生するがんで、飲酒や喫煙が発生の原因となります。
下咽頭がんの主な原因は大量飲酒と喫煙ですが、酒を飲む人の体質が発がんに大きく関わっていることが最近の研究で明らかになってきました。酒を飲むとアルコールは肝臓でアセトアルデヒドという有害な発がん物質に変わります。しかし、多くの人ではこのアセトアルデヒドは短時間の内に分解されて無害な物質となるので、危険性はそれほどありません。しかし、アセトアルデヒドを無害な物質に分解する働きが体質的に弱い人がいます。その場合いつまでもアセトアルデヒドが体内に残り、下咽頭がんや食道がんを引き起こしやすくします。そういった人たちは元来酒に弱く飲むとすぐ赤くなる体質を持っているので、無理して飲まなければ問題ないのですが、仕事のつきあいなどのためがんばって鍛えて酒が飲めるようになると危険なことになります。発がん物質のアセトアルデヒドがいつまでも体内に残りがんを誘発しやすくなるのです。こういったタイプは日本人の40%にみられると言われています。飲むとすぐ顔が赤くなる人はお酒を控えることをお勧めします。
初期の症状はのどの違和感、つかえ感や食べ物がしみる感じなどで風邪症状に似ています。一方進行すると声がれ、嚥下困難、強いのどの痛みなどが出現し、さらに進行すると空気の通り道をふさいで呼吸困難となります。首のリンパ節に転移しやすく、首のしこりを機に見つかることも少なくありません。
早期がんに対しては、放射線治療を行うことが多いです。口から内視鏡を用いたり内視鏡で観察しながら切除できることもあります。
進行がんに対しては、手術または抗がん剤を併用した放射線治療(化学放射線治療)が中心となります。
手術では、喉頭も同時に摘出し、腸を移植して食べ物の通り道を再建する必要があります。化学放射線治療では喉頭を残すことができるので、声を温存することが可能ですが、体への負担は大きく、治療後の嚥下機能低下による誤嚥性肺炎のリスク、味覚障害などが残ります。
治療選択については、症状、患者さまの体力、希望などを考慮しながら決定していきます。
医師 頭頸部外科部長
菅澤 正 (すがさわ まさし)
SUGASAWA MASASHI
日本耳鼻咽喉科学会専門医・指導医、 日本頭頸部外科学会頭頸部がん専門医・指導医、 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会専門医・指導医、 日本気管食道学会認定気管食道科専門医、 日本がん治療認定医機構がん治療認定医、 緩和ケア基礎研修会修了、 臨床研修指導医講習会修了、 医学博士
医師の詳細はこちら医師 耳鼻咽喉科部長
明石 健 (あかし けん)
AKASHI Ken
日本耳鼻咽喉科学会専門医・指導医、 日本頭頸部外科学会 頭頚部がん専門医・指導医、 日本がん治療医認定機構 がん治療認定医
医師の詳細はこちら医師 腫瘍内科 部長
大山 優 (おおやま ゆう)
OYAMA Yu
日本内科学会認定内科医・総合内科専門医、 米国腫瘍内科専門医、 米国血液科専門医、 日本臨床腫瘍学会指導医、 日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医、 日本臨床腫瘍学会協議員、 日本臨床肉腫学会理事、 日本サルコーマ治療研究学会評議員
医師の詳細はこちら医師 放射線科 部長・放射線治療センター長
庄司 一寅 (しょうじ かずふさ)
SHOJI Kazufusa
日本放射線腫瘍学会・日本医学放射線学会 放射線治療専門医、 厚生労働省指定オンライン診療研修修了
医師の詳細はこちら放射線治療に抗がん剤を併用することで治療の上乗せ効果が得られることが分かっています。病気に対する治療が強くなる反面、放射線治療の代表的は副作用である粘膜炎や皮膚炎も増強することが多いです。また抗がん剤の副作用の消化管傷害や嘔気嘔吐などで十分な食事を口からとることが難しくなる場合があります。治療を最後までやり遂げることを優先し、あらかじめ胃瘻を作ることで、治療中胃瘻を通してしっかりと栄養を取ることができるようにします。胃瘻は治療が終わり不要になれば、抜去可能です。
手術前と同様に食事をとることができます。ただし、咽頭と腸には違いがあり、注意点があります。まず、咽頭は意識的に飲み込むタイミングで収縮しますが、腸は勝手に蠕動します。飲み込むタイミングと腸の蠕動のタイミングと合わないときに食事の通りが悪かったり、食事が流れていくのに時間がかかったりすることがあります。また、腸粘膜は咽頭粘膜と比べて繊細です。腸を移植した場合、口で噛んで飲み込んだものがすぐに腸粘膜を通過することになるため、よく噛まずに食べると腸粘膜を傷つけて出血することがあります。また腸を吻合した部位が細くなることがあり、食事がその部位でつまることがあります。これらの理由から、よく噛んで食べることが重要になります。
再発がないか定期的に外来に通院していただきます。残念ながら病気が再発してしまった場合も、早めに再発を見つけることで救済治療を検討できます。生活の注意点としては、手術で喉頭を摘出した方は、喉頭がんの術後と同様に、首の前方に気管孔ができます。その穴に水などが入らないようにしたり、極度に乾燥しないようにガーゼやスカーフなどで覆い保湿したりする必要があります。また息むことができなくなるため便秘気味になります。便を軟らかくする薬をつかったり、下剤をしようしたりして便秘にならないように気をつける必要があります。また、気管孔を通して呼吸するため、臭いが分からなくなります。火を使う場合など注意が必要です。 放射線などで治療した方は、喉の知覚が低下し、嚥下の機能が落ちているため、誤嚥に注意が必要です。誤嚥性肺炎により致命的になることもあります。発熱があれば早めに受診が必要です。